農家の嫁の日記

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当ブログでも発表している『キョウジ兄さんに捧げる物語』を小説同人誌にしました。手作り感満載ですが、興味ある方はどうぞ〜

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zoom RSS されど、龍は手を伸ばす。 231 ――無双OROCHI異聞録―――

<<   作成日時 : 2015/03/08 23:55   >>

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「―――――――」

 ハヤブサは何事か短く言葉にならない叫びを上げたかと思うと、そのまま意識を手放してしまった。傷だらけになったその手には、空蝉の如く空になった、シュバルツのロングコートが握りしめられていた。
 その悲痛な姿に皆一様に、言うべき言葉を失ってしまう。中にはすすり泣き、嗚咽を漏らす者もいた。

「この世に神様は居ないの……?」

 甲斐姫の呟きが、皆の気持ちを代弁していた。


 キョウジはまたふらふらと、気を失ったハヤブサの後をついて行ってしまっていた。屁舞留も、その後をついて行く。
「――――――!」
 寝台の上で目が覚めたハヤブサは、手の中にあるシュバルツのロングコートに気がつくと、声を上げて泣き出してしまっていた。握りしめられたロングコートが、ぐしゃぐしゃになってしまっている。キョウジは、そんなハヤブサを見ていられなくなって――――幕舎をそっと後にしていた。
(これから、どうすればいいのだろう……)
 キョウジは陣屋の広場に歩を進めながら、漠然とそんな事を考えていた。
 少ないとはいえ、村人たちも妖魔たちも、ある程度は助かっている。もうこれ以上「シュバルツを助けたい」と言う個人的な願いだけで、あの悲惨な戦場を2度も3度も繰り返させる訳にはいかないと思った。実際、この戦場の結末を否定したいと願って時を遡ったケイタ自身も、何度も危ない目に遭っていた。文字通り、命からがら――――今回は運良く助かった様な物だが、次はどうなるか分からない。
(もう、『村を救う』という観点から言うのなら――――この成果でも充分なんだよな……。でも、ハヤブサが………)
 このままではハヤブサだけが、報われない。

「キョウジ……」

 かけられた声にキョウジが振り向くと、そこに屁舞留が酷く申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「キョウジ済まぬ……。またしても、お主の『影』を――――」
 屁舞留の言葉に、キョウジは静かに首を振る。
「私たちの事は良いんだ……。それで助けられた人たちが居るのなら……。でも――――」
「龍の忍者か………」
 言い淀んだキョウジの言葉に、屁舞留も瞳を曇らせる。
 あの龍の忍者は、シュバルツを助け出せるまで、おそらくこの戦場を放棄する事はしないだろう。でも、絶望的に厳しい戦場――――このままでは龍の忍者も、あの村を覆う『死の闇』に囚われてしまう可能性がある。
 どうすればいいのだろう。
 自分は、助けてもらった村の『土地神』として、どうするべきなのか―――と、屁舞留が考え込んでいた時、陣屋の広場に集まっていた人間たちが、声を上げていた。あの青年――――シュバルツを、見捨てるべきではない、助けるべきだと。
 傷だらけで動けない筈のハヤブサまでもが広場に出て来て懇願する。シュバルツを助けるために、自分を過去へ戻して欲しいと。

「焦るな。龍の忍者」

 それまで黙って皆の話を聞いていた太公望が、ついに動き出した。
「どうせなら、『全員』を助けないか?」
「え………?」
 太公望の真意が分からず、きょとん、とする皆に向かって、稀代の軍師は『策謀家』としての笑みを浮かべる。
「村人が全員逃げられるように……あの青年を悲劇から助けられるように――――」
 状況のお膳立てをしてやる、と、笑う軍師に屁舞留は首を捻り、キョウジは茫然としていた。
「ど……どう言う事じゃ……? あの男は、何を企んでおるのじゃ……?」
 戸惑いながら問う屁舞留に、キョウジが答えた。
「おそらく……あの村の『歴史』に介入する気なんだ……」
「介入じゃと?」
 少し驚く屁舞留に、キョウジは頷く。
「ああ……。この戦いで、生き残った村人たちや妖魔たちがだいぶ増えた。そして、ハヤブサとシュバルツの過去にも『接点』が出来ている。恐らく太公望は、新たに出来たこれらの『縁』を使って、あの戦いに至るまでの歴史に『介入』するつもりなんだ……」
 襲撃される前に、村人たちが素早く避難できるように。
 敵味方が入り乱れる戦場の問題を、解決できるように。
 難民の受け入れ先を、しっかり確保できるように。

「何故じゃ……」

 屁舞留が、茫然と呟く。

「何故あの者たちは……吾の村の民達のために、そこまでして――――」

「きっと……あの人たちの中で、ハヤブサの歩んできた道が――――『彼の願いを叶えたい』と、思わせるのに十分な物だったから、だろうね……」
 つまりここに至るまでの道のりで、ハヤブサ自身がその技量で、多くの人たちの『願い』を叶えて、救って来たからに他ならない。それが一本の大きな太い縄となって、死へと落ちて行く村人たちとシュバルツに、差し出されているように、キョウジには見えた。その編まれていく縄も、それを支える人数も、徐々に増えて行きつつある。
 しかし、シュバルツがその縄を掴むのはおそらく最後。
 彼は一番『死』に近い、最下層にその身を置いている。

 果たして皆の手は
 ハヤブサの伸ばされた手は
 今度こそ、シュバルツに届くのだろうか――――

「では行くぞ!! ぐずぐずするな!!」
 周りに喝を入れながら、軍師太公望が動き出す。
「私たちも行こう!」
 キョウジは屁舞留に声をかけて、自身もまた、太公望の後について行った――――


「……ここから先は、貴方の知っている通りの戦いの展開になる。皆無事に――――あの戦場を抜けられた、と言う訳だ」
 ここでキョウジがシュバルツに情報を渡す手を一度止めて、目の前のシュバルツに微笑みかけた。当のシュバルツは、ただただ呆然とするしか無かった。
「そんな……! じゃあ、私が経験したこの戦場は、ハヤブサたちにとっては――――!」
「そう。『3度目』と言う事になる。貴方は既に二度、死んでいるんだ……」
「……………!」
 言葉を失うシュバルツに、キョウジは小さな息を吐くと、再びその面に笑みを浮かべた。

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