農家の嫁の日記

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当ブログでも発表している『キョウジ兄さんに捧げる物語』を小説同人誌にしました。手作り感満載ですが、興味ある方はどうぞ〜

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zoom RSS マリオネット狂想曲 21

<<   作成日時 : 2016/05/19 01:12   >>

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 ダイニングで脱力して椅子に座りこんでいるキョウジの前に、トン、と、水が入ったコップが差し出された。
「………落ち着いたか?」
 声をかけられて顔を上げると、その先にハヤブサの優しい眼差しがある。
「うん……。ありがとう……」
 笑みを見せるキョウジに、ハヤブサも微笑み返す。だが同時に、少しの寂しさも感じた。
 愛おしいヒトと同じ笑顔。
 自分は、もうずいぶん長いこと、彼のヒトのこんな笑顔を見ていないのだと、否が応でも気づいてしまうから。
「少しずつでも、飲めるようなら飲め。だが、無理はするな」
「うん………」
 キョウジは両手でコップを持って、そろりと水分を口に含んだ。口の中の潤いに、キョウジは乾いてしまっている己を自覚する。しかしまだ、水分を一気に飲もうとは、どうしても思えなかった。
「…………………」
 ちびりちびりと水を飲みながら、キョウジは己の感情と考えを整理する。
 思うところはいろいろある。
 だが、最初に自分がハヤブサに伝えねばならぬのは、この言葉だ。

「…………ハヤブサ」

「何だ?」
 自身にも茶を入れていたハヤブサが、キョウジの声に振り向く。

「………ありがとう……」

「キョウジ………」
「………シュバルツを、助けてくれて………」
「『助けた』とは少し違う。俺は、責任を取っただけだ」
 そう。狙われたのは自分で、シュバルツは何の落ち度もないのに、それに巻き込まれただけだ。その結果、彼が呪われたのだと言うのなら、それを祓うのは自分の当然の責務なのだとハヤブサは思った。
「でも………」
「それに、礼などまだ早いし、不要だ。まだシュバルツを完全に元に戻せたわけでもない」
「……………」
 ハヤブサの言葉にキョウジは黙るが、まだ釈然としていない顔をしていた。
「それでもやっぱり、お礼を言わせて、ハヤブサ」
「キョウジ……」
「『呪術』の本で読んだ……。呪いを祓うのに、『食べる』という手段は確かに、有効な手段なのだと……。だけど――――」
 キョウジの顔色は、依然として悪く、コップを持つ手もカタカタと小刻みに震えている。
「いくらシュバルツを助けるためとはいえ………あんな……物を………ハヤブサ………!」
「あまり深く考えるな、キョウジ。俺なら平気だ」
 キョウジの言葉を断ち切るように、ハヤブサは口を開いた。またキョウジを吐かせるわけにはいかないと思った。
「それに、俺がやったことは、特別なことでもなんでもない。誰だってすることだ」
「そうなのか?」
 きょとん、とするキョウジに、ハヤブサは憮然と頷く。
「現に、お前もそうだろう? 誰か親しい者を助けるためならば―――――必要とあれば『毒』でも食らうのではないのか?」
「―――――!」
「それと同じだ。だから、気にするなキョウジ」
(………そうかなぁ……。いや、そうかもしれないけれど……)
 ハヤブサの言っていることも分かるが、自分はやはり納得できない。シュバルツも自分も―――――ハヤブサには返しても返しきれない恩義を受けたように思う。
 いくら『好き』と言っても、あの『墨』は、生半可の気持ちで口に含める代物ではない。正体を知ってしまっている自分は、なおのこと、それをするのを躊躇してしまうだろう。
(だがハヤブサは……あの『墨』の正体を正確に知っても、躊躇わず同じことをしそうな気がするなぁ。シュバルツを助けるためならば………)

 やはり、ハヤブサの愛情は、深く重い。
 自分は、そしてシュバルツは
 その愛情に、これから先も何らかの形で応えていかねばならないと思う。

「うん……。分かった……。ありがとう、ハヤブサ……」

 その決意を胸に秘めて、キョウジは微笑む。その笑みを見たハヤブサは、キョウジが自分の言葉に納得してくれたのだと受け取って、うん、と、頷いた。

「それでだ、キョウジ。俺はこれから『仕事』に向かわねばならぬ」

 ハヤブサは本題の話を始めた。シュバルツをここに預けていくために、今日はそのために寄ったのだから。
「詳しくは言えないが、任務には多少の危険が付きまとう。そんなところに今の状態のシュバルツを連れてはいけないんだ。だからキョウジ―――――シュバルツをしばらくここで預かっていてくれないか?」
「それはお安い御用だけれども―――――」
 そう言いながら、キョウジは少し難しい顔をする。
「でも、ハヤブサ……。大丈夫なのか? あなたの顔色こそ、少し悪いような――――」
 いくら龍の忍者が『強い』と言っても、あの邪法で塗り固められた『墨』は、相当な『毒』を含んだ代物だった。それを体内で『浄化』できていたとしても、ハヤブサに何もダメージがなかったとは、到底思えない。

「案ずるな、キョウジ。問題ない」

 キョウジの懸念を断ち切るように、ハヤブサは言い放つ。
 確かにこの2週間、ほぼぶっ続けでシュバルツを清め続けたハヤブサに、ダメージが残っていないと言えば、それは嘘になった。
「リュウさん!! 少し、休んでください!!」
 最後の方では、里での付き人である与助が悲鳴を上げるほどに、外からもはっきりとわかるほど、ハヤブサはやつれていた。
 そんなときに『龍の忍者』に舞い込んできた、仕事の依頼。もちろん、ハヤブサには、断る選択肢もあった。
 だが、この――――某国の過激派に捕えられている人質を救出する仕事は、実は数か月前から依頼されていた代物で。沢山の人々の協力や助力が働いて、今、細い一本の線のような救出ルートを作り上げることに成功していた。
 これは、奇跡と言ってもよかった。
 この機会を逃せば――――人質救出のチャンスなど、もう2度と訪れないと分かる。
 だからハヤブサは断れなかった。
 依頼してきた機関も、人質となっている人物も、ハヤブサにとっては知らないものではなかったから、余計にだ。

「この仕事は長くはかからない。すぐに戻る」

 キョウジを安心させようと、ハヤブサは言葉を続けた。
 現にこの仕事は、あまり長い時間をかけてはいけない代物だった。
 過激派が横行する現地にとどまり続けるのは危険すぎた。こちらが死ぬ確率も、格段に跳ね上がることを意味するからだ。

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