農家の嫁の日記

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zoom RSS 戦う君に、花束を 46

<<   作成日時 : 2017/02/20 00:49   >>

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「ほう…………」

 やけに低い声が響いたので、シュバルツがぎょっと顔を上げる。すると、ひどく殺気立ったハヤブサの姿がそこにあった。
「誰だ、お前にそんなことを言ったのは」
「や、私のことはどうでもいいから」
 シュバルツは必死にハヤブサを宥める。このままだと彼が、厨房に乗り込んでいって、そこにいる人間を、片っ端から締め上げる可能性が出てきた。

「それで、一応簡単な研修をしてから、この仕事に就いたんだけど、仮にも『姫』に食事を出すのに、『毒見役』もいなかったから───」

 不審に思ったシュバルツが、食事の『毒見』をすると、案の定、致死量の『毒』が、その中に入っていた。

「……………!」
「だから、その食事は全部捨てて、中身を変えてから、持ってきたっていうわけさ」
 そう言って、シュバルツは軽く笑う。ハヤブサは、ただただ恋人の慧眼に、感心するほかなかった。
「食事の中身を変えていること……気づかれているのか?」
 ハヤブサの質問に、シュバルツは少し考え込んだ。
「今のところ気づかれてはいないとは思うが………『姫が食べた』という時点で……ばれるだろうな………」
「………………」
 ハヤブサが少し険しい顔をして、黙り込む。その向こうで、ナディール姫が、『正式な夕食』を、久しぶりに完食していた。

「ありがとうございました……! ええと、シュバルツ様………でしたっけ? 久しぶりのシェフの食事、おいしかったです」

「どういたしまして」
 姫の言葉に、シュバルツはにこやかに答える。ナディール姫は椅子から立ち上がると、優雅に一礼をした。
「今日の食事、『大変結構でした』と、シェフにお伝えください」
「かしこまりました」
 シュバルツも、礼に則り頭を下げる。そのままナディール姫は退出をし、後には食器を片付ける、シュバルツ一人が部屋に残されていた。


 部屋から出て、廊下を少し歩いたところで、姫はハヤブサに呼び止められた。
「姫、この後の予定は、特に何もなかったな?」
「ええ……。今日はもう、あとは部屋に帰って休むだけです。でも、どうされたのですか?」
 少し、小首をかしげるナディール姫に、ハヤブサはにやりと笑いかけた。

「シュバルツの後をつけてみるか?」

「えっ?」

「たぶん………面白いものが見られるぞ?」

「面白いもの………ですか?」

 面白いものとは何だろう、と、ナディール姫は考えてみるが、皆目見当もつかない。そうしている間に、テーブルの上を片付け終わったシュバルツが、サービスワゴンを押しながら、廊下に出てくる。
(ついてこい)
 そんなシュバルツを見ながら、ハヤブサが無言で手招きをする。ナディール姫も、特に反対する理由もなかったので、大人しく従っていた。


(どうせ今日も、あの姫はディナーを食べないだろう)
 厨房で、給仕が帰ってくるのを待ちながら、コックであるイワニコフは、かなりの苛立ちを感じていた。
(くそ……っ! 忌々しい………! なんて勘のいい娘なんだ。あいつがさっさと毒を呷って、死んでくれりゃあ、こっちだって毎回毎回、こんなややこしい物思いをしなくて済むッてぇのに………!)
 この不健全な苛立ちは、彼の中では処理しきれず、結果、周りへの『八つ当たり』となって、表に出てくる。主にその犠牲者となるのは、新しく入ってきた給仕であった。
 サービスワゴンの上に、そのまま帰ってくる姫の食事。それを見て、「お前の給仕の仕方が悪かったから、姫様は食べなかったんだ!!」と、有無を言わさず散々打ち据えてやるのが、彼の中では日課となっていた。
 新人の給仕は、たいてい抵抗もできずに、こちらのされるがままに、暴力を受け入れるのが常だ。一方的に相手を蹂躙できる環境に、イワニコフはひそかな快楽を覚えつつあった。
(新しく入った給仕は、背ばかりが高くて、ヒョロヒョロした奴だったな……。果たして俺様の剛腕を、何発耐えられるかな……?)
 知らず、ほの暗い笑いがイワニコフの面に現れる。同僚や、ほかの給仕たちは、そんな彼をかなり遠巻きにして様子を見ていた。うっかり彼の理不尽な八つ当たりのとばっちりを食らうと、ろくなことにならない。新人一人が犠牲になれば、自分たちの平穏は守られるのだ。そう思えば、あの新人を見殺しにすることなど────彼らにとっては容易いことだった。

 そんな不穏な空気が流れている厨房に、その事態を承知しているのかいないのか────シュバルツの変装した青年が、鼻歌を歌いながらサービスワゴンを押して入ってくる。そのまま彼は、食器を洗い場の方に運んでいこうとしたのだが、その前に、イワニコフの小太りな身体が立ちふさがった。

「おい」

「何ですか?」

 きょとん、としながら、その青年は立ち止まる。イワニコフはあたりを睥睨するように身体を揺らしながら、青年に問いかけてきた。
「姫様は、食事をちゃんと食べてくださったんだろうな……!」
 いえ、召し上がってはくださいませんでした、というのが、今までの流れだった。
 しかし、この日は違った。
 青年は、その面ににこっと人懐っこい笑みを浮かべると、穏やかに答えた。

「ええ。食べてくださいましたよ」

「─────!?」

 ぎょっと、驚いてイワニコフがサービスワゴンの方を見ると、確かに空の食器が並べられていた。

「姫様から『大変おいしかったです。シェフによろしくお伝えください』と、伝言を承ってまいりました」

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