農家の嫁の日記

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災害で亡くなられた方、被災された方に哀悼の意を捧げるとともに、心よりのお見舞いを申し上げます。
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zoom RSS 戦う君に、花束を 64

<<   作成日時 : 2017/03/11 00:29   >>

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「…………………」

 暗い通路に、ハヤブサの声の残響音が響く。しばし、耳を澄ませてみるが、帰ってくる反応は、皆無であった。

「ロアンヌさん!! ミレイさん!!」

 ナディール姫も、ハヤブサに倣って呼びかける。しかしやはり─────声は暗黒に吸い込まれるばかりであった。
(この近くには、いないのか………?)
 ハヤブサがそう考え込んでいると、ナディール姫から「ハヤブサ様」と、呼びかけられた。
「どうした? ナディール」
「この水路は、もう少し先に続いているんです。もっと進んでみましょう」
「そうだな」
 姫の提案に、ハヤブサも素直に従っていた。
 二人とも、人質を見つけるまでは帰らない────
 その強い想いで、一致していた。


「大変だ!!」

 一方厨房では、イガール隊長の様子を見に行っていた兵士が、血相を変えて走りこんできていた。
「どうしたんだよ? セペタ」
 問う兵士に、セペタ、と呼ばれた兵士は、慌てふためきながら答えた。

「イガール隊長が、泡吹いてぶっ倒れてる!!」

「ええっ!?」
「かろうじて意識はあって、『水……………。水……………』って、うわごとみたいなことを言っていたから、取りに来たんだけど………」

「大変だ………!」

 その場にいた兵士たちの顔から、さ〜っと、血の気が引いていく。

「と、とにかくそこのコップに水を入れて、持っていこう!」
「担架は居るか?」
「用意しておいた方がいいかもな」
「俺たちはもう大丈夫だ……! だから、イガール隊長の方へ行ってくれ!」
 手当てを受けていた兵士たちが叫ぶ。その言葉を受けた2、3人の兵士たちが、水を持って、あわただしく厨房から出て行っていた。

「………まさか、イガール隊長まで、『毒殺』されかけた、とか………?」

 厨房に残った兵士たちで、イガール隊長が倒れた原因の推理大会が始まる。
「いや、それはないだろう。どっちかといえば、『過労』の方じゃないのか?」
「ここ最近、隊長が俺たちより早く帰るところ、見たことないもんなぁ」
「ていうか、宿舎に帰っているのか?」
「寝ていない可能性も────」

「…………………」

 兵士たちの話を聞きながら、シェフは静かに立ち上がった。自分の本分を、思い出したのだ。
(そういえば、明日の料理の仕込みの途中だった…………)
 ガステーブルの上に、スープの鍋が乗っている。いろいろあったせいで、料理は中断してしまい、当然のことながら、中のスープは冷めてしまっていた。
(このスープ…………もう、明日の料理には使えないな………)
 シェフはそう感じてため息を吐く。このような中途半端な料理など、王族の方たちに出せようはずもない。だから、本来なら、捨てなければならないものではあるのだが────
(イガール殿の栄養補給には、ちょうどいいものになっているかもしれない………)
 そう思ったが故に、シェフはそのスープを温めなおしていた。
「………………」
 ガスコンロの上で、順調に鍋が熱せられ、小さな気泡が、鍋の底からスープの中に沸き立ってくる。厨房の中に、おいしそうなスープの匂いが立ち込め始めた。

「お、いい匂い」
「本当だ………」

 兵士たちもしばし、調理場に立つシェフの後姿を見つめる。
 コト、コト、と、小さく音を奏でる鍋。
「…………………」
 味見をして、調味料を少し足す。味が整ったところで火を止め、小さな器にスープを入れて、シェフは振り返った。

「………どなたかこれを、イガール殿のところに持って行ってくださいませんか?」

「隊長に?」
 少しびっくりしたように問い返す兵士に、シェフは頷いた。
「……お話から察するに、イガール殿は食事もろくに取られていないご様子……。ですので、どうかこれを。イガール殿の、助けになるかと思います」
「分かりました! そういうことなら! 隊長も、喜ぶと思います!」
 兵士の一人がそう言って立ち上がると、最敬礼をしてスープを受け取る。そのまま彼は、スープを大事そうに抱えて、厨房から出て行っていた。

「………あなた方も、どうですか?」

 その兵士を見送ってから、シェフは厨房に残っている兵士たちの方に振り向く。
「えっ!? いいんですか?」
 驚く兵士たちに、シェフは、小さく笑って答えた。
「ああ。どうせこれは、捨てなければならないものだ。それならば少しでも、君たちの足しになれば……………」

「本当ですか!? シェフ!!」
「うわあ! やったぁ!!」
「そういうことなら、喜んで!!」

 兵士たちは喜び勇んで、器を持ってシェフの前に並びだす。それからしばらく厨房の中は、スープの香ばしいにおいと、それを食べる兵士たちの、温かい笑顔であふれていた。
(やはり、皆の幸せそうな笑顔はいいな………)
 皆の、その幸せそうな顔を見ながら、シェフは、自らの原点を思い出す。

 自分の作った料理で、皆に、幸せになってもらいたい。
 その願い一つを抱えて、自分は、この道を歩む決心をしたのではなかっただろうか。

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