農家の嫁の日記

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当ブログでも発表している『キョウジ兄さんに捧げる物語』を小説同人誌にしました。手作り感満載ですが、興味ある方はどうぞ〜

災害で亡くなられた方、被災された方に哀悼の意を捧げるとともに、心よりのお見舞いを申し上げます。
がんばれ日本!!

zoom RSS されど、龍は手を伸ばす。 141 ――無双OROCHI異聞録―――

<<   作成日時 : 2014/11/21 15:39   >>

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「御館様……」
 茫然と自分を見つめてくる部下に、北条氏康はその面にふっと笑みを浮かべる。

「遠慮する事はない。行って来い」

「で、でも………」
 完全に怯えてしまっている自分。
 踏み出す勇気が、一歩持てなかった。
「あの龍の忍者のいうとおりだぜ、坊主。……本当は、お前だって分かっているんだろう?」
「………?」
 眉をひそめて、怪訝な表情を浮かべる甲斐姫に向かって氏康は尚も言葉を続ける。

「あの戦場で受けた屈辱は、同じ戦場じゃねぇと返せねぇって事に」

「―――――!」
「だから、お前は行って来りゃあいい。堂々と――――借りを返して来い」
「あ…………!」
 もう一度甲斐姫は、ハヤブサの方に振り返る。
 龍の忍者の視線はぶれない。手も、差し出されたままだ。
「………!」

(怯えるな)

 また、誰かの声が心に響く。

 ああそうだ。
 逃げるな。
 踏み出さなければ
 何も動きださない――――

「分かった……。ハヤブサさん……」

 甲斐姫は意を決したように、ハヤブサの手の上に、その手を乗せた。
「今度こそ――――全力で頑張るから……! また、よろしくお願いします!」
 それに対してハヤブサは、その面に優しい笑みを浮かべる。
「今度『も』全力で、だろう? こちらこそ、よろしく頼む」
「う………!」
 ハヤブサの言葉に甲斐姫は少し息を飲み、氏康は大笑しだした。
「確かに! うちの坊主は何時だって『全力』だな」
「お、御館様……! そこまで笑う事はないでしょう!?」
 甲斐姫の抗議する言葉に、氏康はますます笑い出してしまう。場の雰囲気が、少し和やかな物になった。

「甲斐が行くなら、私もまた、一緒に行くわ」

 甲斐姫の前に、そう言いながら孫尚香が進み出てきた。
「良いでしょう? 甲斐」
「もちろん!! 尚香!! 喜んで!!」
 友人の申し出に、甲斐姫がようやくいつもの彼女らしい笑顔になる。
「―――人選は、終わったようだな」
 太公望に声を掛けられてハヤブサが頷いた。それを見て太公望もにやりと笑うと、手に持っている打神鞭をパシン、と鳴らした。
「では、今話した通り、お前たちにはあの戦場に飛んでもらう。今度こそ村人たちとシュバルツと言う青年を救い出し、素戔鳴に打ち勝つのだ!」
「言われずとも」
と、ハヤブサが頷けば、後ろに控えていた孫尚香と甲斐姫も頷く。3人の士気が高い事を感じ取った太公望は、満足そうに頷いた。
「いいか。私はありとあらゆる縁を使って、あの時間軸の歴史に干渉してきた。今からお前たちが飛んでもらう時間は、最初にお前たちが飛んだ時と同じだが――――あの村を取り巻く環境も、大分変わっているはずだ。村人たちとシュバルツのお前たちに対する反応も、違った物になるだろう」
「え……? それはどう言う――――」
「行けば分かる」
 疑問を呈す甲斐姫に、太公望はにやりと笑って答える。
「もちろん、変えられない流れもある。あの村に仙桃が生え、村人たちが妖魔たちとの交流を持ち、素戔鳴の怒りを買う。これは、もう私でも手出しができない流れになっていた」
(そうか……。まあ、そうだろうな)
 ハヤブサは太公望の話を聞きながら、妙に納得していた。
 確かにあの村人たちならばシュバルツを受け入れ、そしてシュバルツは妖魔の子供を助けてしまうだろう。例え、それをしたせいで自分が死ぬと分かっていても――――

 だが、シュバルツはそれでいいと思った。
 そんなシュバルツだからこそ、俺はあいつを好きになったのだから。

「だから、その後の流れが村人たちにとって少しでも楽になる様に、少々細工をさせてもらった。まあ、その細工を整えるのが、骨が折れる作業ではあったのだがな」
 そう言って太公望はフフフ、と笑う。『骨が折れる』と言った割には楽しそうにそれを語っているように見えるのは、やはり太公望が根っからの『策士』であるが故だろうか。
「―――状況は整っている。故に、後はお前たちが選びとって行くだけだ。村人たちのために、お前が救いたい者のために、何が最良か――――よく考えて、掴み取って行け」
「分かった」
 頷くハヤブサに太公望も頷くと、かぐやの方に振り向く。その意をくみ取ったかぐやが、静々とハヤブサたちの前に進み出てきた。
「では皆様……『光陣』の方へ、お進みくださいませ」
 かぐやの導くままに、3人は歩を進めようとする。―――と、そこに、彼らを呼びとめる者が居た。
「尚香殿。ハヤブサ殿」
「関羽将軍!」
 少し驚いた顔を見せる孫尚香に向かって関羽は軽く頭を下げると、おもむろに口を開いた。
「これから拙者も、過去に戻り申す。ハヤブサ殿達とはまた違ったルートを使うが、あの場所のあの城に、拙者も戻る手筈でござる」
「関羽様も……?」
 問い返す甲斐姫に、関羽は頷いた。
「故に尚香殿。貴女が城からの援軍が必要と思えば、迷わずに来られよ」
「―――――!」
「貴女が呼びかけてくだされば、拙者はすぐにでも城を出る。例え兄者に反対されようとも、軍師殿の命に逆らう事になろうともだ」
「あ…………!」
 関羽のこの言葉に、三人ともが息を飲む。
 しかしこれは、確かに心強い言葉だった。少なくとも村人たちの援軍と受け入れ先が保証されている事になるのだから、それだけでも随分展開が違ってくる事が分かる。
「分かったわ。関羽将軍、お願いね」
「承知」
 笑顔を見せる孫尚香に、関羽も頷く。今――――総ての状況が整ったと悟った。
(待っていてくれ、シュバルツ……! 今度こそ、お前を助けるから……!)
 柄に巻きつけられているシュバルツのロングコートの切れ端を、ハヤブサは意識する。
 もう、あんな哀しい想いを味わいたくはない――――そう強く願いながら、一歩、光陣に向かって足を踏み出そうとする。と、そこに太公望が声をかけてきた。
「ハヤブサ」
「………?」
 振り返る龍の忍者の瞳をじっと見据えていた太公望であったが、やがて、口を開いた。
「……絶対に、最後まで油断するなよ?」
「?」
 油断など端からする気も無いが、太公望の少し思い詰めた瞳が気になったので、ハヤブサは彼の話を聞く事にした。
「私はあの時間軸に対して、打てる限りのありとあらゆる手を打ったつもりだ。恐らくお前たちや村人たちにとって、最良の選択肢が用意されるようになっているはずだ。だがそれでも――――『シュバルツ』と言う青年を、100%助けだせると言う保証が出来ない」
「と、言うと?」
「これは万が一の話だが――――その青年が『運命の悪意』に取り込まれていた場合だ」
「―――――!」
「こいつに魅入られると厄介だ。そうなった場合、我々がどんなに手を尽くしても、その人物は『死』へと追い込まれてしまう可能性がある。……こちらの取り越し苦労だとは思いたいが、その可能性も0ではないので、お前に忠告しておく」
「……………!」
 太公望の話を聞きながら、ハヤブサは思わず息を飲んでいた。
 だが確かに、シュバルツは同じ戦場で既に2度、命を落としている。こちらの力不足に因る所が大きいだろうが、妙な悪運も付いて回っている様な気もした。「2度ある事は3度ある」とも言う。もしもシュバルツが、その運命の落とし穴にはまり込んでいたのだとしたら。

「その上で敢えて、お前に言う。運命に打ち勝て! ハヤブサ!!」

「――――!」
 ハヤブサの眼差しを、太公望の真摯な眼差しが射抜く。
「村人とその青年を助け出し、素戔鳴に、運命に――――人の子の力を見せつけてやれ!」
 太公望の話を聞きながら、ハヤブサは少し驚いていた。普段理知的で、とても冷静な印象を与える太公望の瞳の奥に、こんなにも熱い物が燃えたぎっていたとは知らなかった。だがそれだけに、この件に、太公望が本気で取り組んで居てくれている事も分かった。そして、その期待を裏切るべきではないと言う事も。

「承知した」

 ハヤブサは短くそう答えると、踵を返した。龍剣を握る手に、少し力を込める。すると、愛刀からも、何事か小さく答えが帰ってきた様な気がした。
 この戦い。いずれにしても絶対に負けられない。
 強く、そう思った。

「ではハヤブサ様……。強く想い浮かべられませ。貴方様が戻りたいと願う時を。貴方様がお救いしたい人を――――」

 光陣に入ったハヤブサたちに、かぐやがそう声をかけながら手をかざす。彼女の手から、眩い程の光が溢れてきた。
(俺が……俺が『戻りたい』と思う場所は……『救いたい』と願う人は――――)

 強く
 強く脳裏に思い描く。

(シュバルツ……)

 愛おしいヒトと再会した、あの瞬間を――――

「―――――」

 ハヤブサたちの身体は光陣の中で光に包まれて
 そして、消えて行った。

「………行ったか」
「はい……滞りなく――――」
 太公望の呼び掛けに、かぐやが振り返る。それを見た太公望は、満足そうに頷いた。
「ではかぐや……。後少し、働いてもらうぞ。総ては、手筈通りに――――」
「はい。心得ております」
 かぐやは一礼すると、静々と歩き出す。その後ろ姿を見送りながら太公望が一息ついていると、伏犠と女媧が近寄ってきた。
「無事、行ったのう」
「ああ、そうだな」
「……勝てると思うか? 素戔鳴に、『運命』に――――」
 女媧の問いかけに、太公望は苦笑しながら答える。

「勝ってもらわねば困る。妖蛇を倒すためには、素戔鳴は絶対に乗り越えねばならぬ相手だからな」

「我ら神仙界の者が、もう少し手出しせんでも良かったのか?」
 伏犠の問いかけに、太公望は少し遠い目になった。
「構わん。この戦いの目的は、飽くまでも人の子の力を素戔鳴に示す事にある。人の子の力が素戔鳴を超え得ると証明して初めて、妖蛇に対抗する道筋も、見えてくると言うものだ」
「ふうむ、そんなものかのう」
 太公望の言葉に、伏犠は顎に手を当てて考える仕種をする。その横で、太公望が大きく伸びをした。
「さて、私は少し休ませてもらうぞ? 後の事はよろしく頼む―――」
「休むって……どこへ?」
 問いかける女媧に太公望は短く「昼寝だ」と言い放つと、すたすたと歩いて行ってしまった。
「全く……あの坊やは……」
 呆れかえる女媧に対して、伏犠は苦笑する。
「仕方があるまい。ここ数日、ろくに寝もせずにいろいろやっておったようだし」
「まあ、確かにな……」
 伏犠の言葉に女媧も反論の余地を失って、納得するしか無かった。それほどまでに、ここ数日の太公望の働きぶりは、目を見張る物があったからだ。
「坊やの仕事が……きっちり実を結べばいいが――――」
「そうじゃのう。今こそ、人の子の力が問われる時じゃ。旨く行ってくれればよいがのう」
 雲が覆った空の彼方に、小さな青い空がのぞいている。
 伏犠にはそれが人の子の間に灯った小さな希望の様に見えていた。
(この青い空が、もっと大きく、一面に広がってくれればいいが……)
 そんな事を思いながら、彼はその小さな青空を、飽く事もなく眺めていた――――。

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