農家の嫁の日記

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zoom RSS 戦う君に、花束を 6

<<   作成日時 : 2017/01/09 14:55   >>

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 店から出たナディール姫は、スムージーを食べながら、市場の道を歩く。その姿は本当に、ただの町娘にしか見えない。初対面の人が彼女をこの国の『王女だ』と、見抜くのは、かなり不可能に近いだろう。
 それでもナディール姫の後ろからついてきている兵士たちからしたら、生きた心地がしなかった。自分たちは城から脱出したナディール姫に気がついて、たまたまついてきたに過ぎないのだから。

「姫様〜。もう、帰りましょうよ〜」

 兵士の一人が、情けない声を上げる。
「そうですよ〜。万が一何かあったらどうするんですか?」
 もう一人の兵の表情も、もはや半泣きになっていた。兵士たちも、今のナディール姫を取り巻く状況が、かなり不穏なものになりつつあることを、なんとなく察知していた。それゆえに、一人で城から出ていこうとした彼女を制止することも放置することもできず、ついてきていたのである。

「あなたたち………」

 情けない声を上げながらついてくるお供に、ナディール姫は苦笑しながら振り返った。
「私のことは放っておいて、帰ってくれてもかまわないのに……」

「そういう訳には参りません!!」

 ナディール姫のその言葉に、兵士の一人が語気を強めて反論する。
「いいですか!? 姫様は今、とても大事な立場にいらっしゃるんですよ!?」
「そうですよ!! それなのに、万が一の事態が起きたらどうします!? 我々も含めて城の全員の警備の物が─────!」

「イガールには、ちゃんと断ってから出てきたわ」

 ナディール姫は、ため息交じりに兵士たちに答えた。
「イガール隊長にですか?」
 鸚鵡返しに兵士たちが口を開く。ナディール姫のこの言葉は、彼らにとっては少し、意外なものであったらしい。

「そうよ。出ていく前に声をかけたもの。いつものように、『今日は市場にいるわね』って……」

「……で、隊長はなんと?」
「『お待ちください! すぐに行きます!』って、言ってくれてたんだけど……」
 ナディール姫は、ここでペロッと舌を出した。

「待っている時間が惜しかったから、そのまま出てきちゃった」

 ずるっと、二人の兵士が同時にこける。
「ひ、姫様〜〜〜〜〜!」
「せめて、隊長を待ちましょうよ……!」
「待ちたかったんだけどねぇ……」
 ナディール姫は肩をすくめる。
「待てない『事情』ができちゃって………」

「…………!」

 兵士たち二人は、もう呆れるよりほかはない。
 この姫のことだ。おおよそ家庭教師か侍従長に説教されるのが嫌で、逃げ出してきた、と、言ったところなのだろう。
 それにしても────
「かわいそうに……イガール隊長、今頃しくしく泣いていますよ……」
 兵士の一人が憐れみたっぷりに言う。もう一人もうんうんと頷いていた。
「いや、必死に姫様を探して走り回っているかもしれませんね……」
「隊長が、慌てふためいている様が、目に浮かぶ……」
「まったくだ……。胃薬の量が増えたりして……」
 そういいながら、兵士二人が大っぴらにため息を吐くものだから、ナディール姫も、多少良心の呵責が疼いた。
「そ、そんなに言わなくてもいいじゃないの……! 後でイガールと侍従長には、ちゃんと謝るわ……!」
 唇を多少とがらせながら、ナディール姫は歩を進める。
「でも、ごめんなさい……。この、町へ行く『視察』だけは、どうか続けさせて……」
「姫様……」
「これは、『約束』だからね。父上と、亡き母君との間に交わした………」
「……………」
 そう言いながら歩くナディール姫の後ろ姿が、哀しみを帯びているような気がして────兵士たちも、もう何も言えなくなってしまう。

「………それに、城に籠っていたって………」

「………姫様……?」
 兵士たちの怪訝そうな声に、ナディール姫もハッと我に返った。
「な、何でもないのよ! あ、それよりも、あなたたちの名をまだ聞いていなかったわね。貴方たち、名はなんというの?」
「えっ! えっ!? 俺たちですか!?」
 唐突なナディール姫の質問に、兵士たちはかなり慌てていた。まさか、王族の人間が、自分たちの様な者の『名前』など、聞いてくるとも思っていなかったからだ。
「と、トマスに」
「モガールであります!」
 慌てて名乗る。すると、ナディール姫もにっこりと微笑んだ。
「トマスに、モガールね。二人とも、しばらくの間よろしく頼みます」
「は、はい!!」
 姿勢を正して最敬礼をする兵士二人に、ナディール姫はくすくすと笑う。 
「じゃあ、行きましょうか」
 踵を返して歩き出す姫の後ろを、兵士たち二人はかなり舞い上がった足取りで、ついて行っていた。

「……………」

 ハヤブサは、その3人から少し距離を置いて、後に続いていた。その間、彼の優れた聴力は、この雑踏の中で交わされた3人の会話を、余すところなく聞き取っていた。
(つまり、この姫が町に出歩くのには、確固たる理由があるのだな……。と、言うことは、日々の行動予定に、この街歩きは入れなくてはならないのか……)
 この雑踏の中、対象者をガードするということは、実際のところ、かなり厳しい。できれば、戴冠式まで────城に籠っていてほしいところではあるが。
 それに、どうやらナディール姫は、何だかんだと言って、ちゃんと頼りになる軍人に、一言伝言を置いてここにきているらしい。つまり、その軍人が来るまでの間、自分はこの姫をガードすればいいのだ、と、ハヤブサは悟っていた。
 どうやらその軍人は、『くそ』がつくほど真面目な人間らしい。ナディール姫を、何時までも一人にはしておかないだろう。

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